首里城の火災焼失(2019.10.31)の原因として、溶融痕なる聞きなれない言葉が出てきたが、どういう意味合いになるか、説明したい

キーワードは、溶融痕とブレーカーの遮断電流になる。

 ブレーカーは過電流が流れると電磁力により落ちて、電気電子機器を保護する役目になるが、漏電防止機能は基本的に付いていない。つまり、20Aのブレーカーの場合、20Aの電流が流れても、瞬時には落ちないどころか数時間流れても落ちない設計となっている。また19A以下の電流が永遠に流れても落ちず、漏電対応となっていない。

 瞬時に落ちる電流は、遮断電流になり、20Aのブレーカーの場合は、20倍の400Aが遮断電流になる。3倍の60Aが継続して流れた場合は、数分程度だろうか、メーカーにより異なる。これは、ブレーカーにモーターを繋いだ場合は、モーターの定格電流が20Aとすると、始動電流は3倍の60Aとされ、それが10秒ほど続くので感度が良すぎて落ちると使い物にならないわけである(下図の右側を参照)。

 右図は、ヒューズになるが、同様に定格電流が長時間流れても、ヒューズが作動しない設計となっている。下図にブレーカーの作動特性の一例を示した

    なお、それではモーター(電動機)に過負荷がかかっても、ブレーカーが落ちないことになり、最終的にはモーターは高温となり巻線が焼けて動かなくなる。それでは困るので、工場の配電盤内には、ブレーカーだけでなく、サーマルリレー付きのマグネットリレーが利用されている。

 この場合、例えば、21Aとか25Aの電流が流れ続けると、サーマルリレーが落ちることにより、モーターを守るようになっている。この場合、サーマルリレーの温度が常温に戻ると手動復帰出来るが、過負荷の原因を取り除かない限り、運転しても再びサーマルリレーが作動してモーターが停止することになる。 


溶融痕とは?

延長コードは細銅線を多数束ねて使っている。


 その結果、延長コードを用いて長時間大電流が流れると、銅線と言えども、オームの法則(発熱量=I^2・Rtに従って発熱することとなる。延長コードに使用されている電線は、細線を多数用いた撚り線になるが、長年使っているうちに、一部が断線しその箇所がさらに発熱して保護しているゴム・塩ビがさらに発熱して溶け落ちたり炭化することになり、最終的には短絡(ショート)することになる。この時点で短絡によるスパークにより銅線の接触箇所で銅の融点(1085℃)を超えて銅細線が断線すると共に先端が半球状となる。これを一次溶融痕と呼んでいる。

 この時点ではブレーカーは作動せず、電流は流れたままであるが、この後に照明等の電源を落としても、短絡位置でのショートカットを残存し、微電流が継続して流れる事になる。そうしている内に、別の個所でも小さな短絡が起きて、そこでも一次溶融痕が出来る。多数の一次溶融痕が出来ても、やはりブレーカーは作動せずに微電流から大電流となって来て、最後に発火すると共に、大きな短絡が生じて、細線が多数一体化した大きな溶融痕が出来る。これを二次溶融痕と呼び、おそらくこの時点でブレーカーは作動する(したであろう)が、火災は大きくなっており、手が付けられない状態となる。

 また、今回の場合、延長コードがどのようなものか不明だが、コードリールと呼ばれるドラムに巻き付けるタイプであれば、巻き付けた状態でプラグをコンセントに差し込んだままであれば、ほどいた状態よりも放熱性が悪いために発熱しやすいと言える。

 想像だが、大きな火災となってから、火災報知器が作動し、それから警備員が見に行った時はあちこちに延焼していた頃と思われる。

 では、何をしていれば、このような火災が起きなかったかというと、以下のようになる。

1.           ライトアップの照明と聞いているが、延長コードではなく固定配線(地中に配管を通してその中に配線)をする

2.           延長コードを使うのであれば、

   ①巻いたまま使わない。②照明時間が終われば、ブレーカーを落とす。③延長コードを毎年新品に交換する。

3.           漏電対策機能が付いたブレーカーの使用

 

後だしじゃんけんのようで恐縮であるが、文化財であるからこそ、このような対策を施す事が必要であったと言える。

 

本項の作成にあたり、以下の文献を参考にしました。この場を借りてお礼申し上げます

1. 名古屋市消防研究室:「電気による出火メカニズム」 近代消防 2014年12月 85-88p

2. 電気設備の知識と技術HP:「配線用遮断器と漏電遮断器の概要」https://electric-facilities.jp/denki4/breaker.html